市場縮小傾向の外食産業で成長を続ける回転寿司業界
1998年以降、縮小傾向にあった外食市場もここにきて底を打った様相を呈している。そのような状況のなか、安定して成長を続け、回転寿司業界のトップを走る企業が、株式会社あきんどスシローだ。
あきんどスシロー代表取締役社長の豊﨑賢一は、調理師専門学校を卒業し、入社以来、回転寿司一筋に携わってきた、職人魂を持った経営者である。
お寿司全体の市場規模は、近年、縮小傾向が止まり、約1兆6000億円とされ、そのなかで回転寿司の業界は年々成長を続けている。回転寿司の市場規模は約5000億円。はた目には個人経営の寿司店が減らしたパイを回転寿司が奪ったという図式だが、豊﨑は日本の食文化における変化も指摘する。
「お寿司は、もともとちらし寿司や巻き寿司、にぎり寿司などがあって、お店で食べるのはにぎり寿司。お寿司屋さんは、高額で一般家庭では家族そろって気軽に食べに行くという場所ではありませんでした。それを可能にしたのが回転寿司です。安くておいしいお寿司を提供することに貢献したといえます。しかも、いまやお寿司=にぎり寿司となっており、歴史的に見て、いまが最もにぎり寿司を食べている時代ではないでしょうか。この30年で、お寿司という食文化が一変しました」
創業以来29期連続で増収昨年、業界初の売上高1000億円突破
回転寿司の業界はいま、あきんどスシローを含む、大手3社による激しい競争の時代にある。同社は、2011年に年間売上高で業界トップとなり、12年9月期の決算では5ヵ年計画の目標であり、一つの節目であった売上げ1000億円を突破した。回転寿司業界全体が成長期にあるとはいえ、あきんどスシローの成長ぶりには目を見張る。ちなみに13年9月期で、創業以来、29期連続で増収を達成した。
食材の原価率は50%会社に誇りを持つ従業員
企業としての強みは大きく2つある。その1つはネタへのこだわり。食材の原価率に約50%をかけている。
豊﨑は「シャリは人肌、ネタは切り立て、寿司はにぎり立て。回転寿司であっても一般のお寿司屋さんと同じでなければならないと考えています。だからネタは価格以上に大切です」。
回転寿司業界では1皿=105円(税込み)が主流となっているが、その一方であきんどスシローでは1皿=189円(税込)の”吟味ネタ”を13年4月から首都圏で本格展開した。これは関西圏の一部店舗で実験的に推進してきた「スシロー189」プロジェクトと呼ばれるものである。「2皿以下の値段で2皿以上のバリューを提供」を基本コンセプトに、105円では難しかった贅沢ネタを味わってもらいたいという考えだ。企業理念である”うまいすしを、腹一杯。うまいすしで、心も一杯。”を、ストレートに体現したプロジェクトだ。
2つ目の強みは人である。多くの人に、安くておいしいにぎり寿司を楽しんでもらいたいという経営理念に基づく想いが、1000名を超える社員はもちろんのこと、アルバイト・パートの人々にも浸透している。彼ら彼女らは、プライベートな時間にも、あきんどスシローの店舗へ家族や仲間と食べに行くとか。働いている一人ひとりがあきんどスシローに対して自信と誇りに満ちているからにほかならない。応対、接客での丁寧さは推して知るべし。09年度・10年度にはJCSI(日本版顧客満足度指数)調査において、同社は飲食業界・レストランチェーン部門での第1位に輝いている。
業界トップが挑む高齢化社会の新フォーマット
回転寿司業界トップの同社の今後の動きだが、次なる目標は売上げ2000億円の達成だ。
これまで同社では、席数200、駐車場50台を基本フォーマットに店舗展開を図ってきた。
「20年までは、郊外への出店を中心に、基本フォーマットでの展開を図っていく計画です。今期からは、この2年の年間20店舗程度の出店を35~40店舗に拡大させます」
世界的な日本食ブームを追い風に、海外進出を積極的に展開している競合他社もあるなかで、足元である国内市場にもまだまだ開拓の余地ありと判断しているのだ。さらに中長期の重点戦略としては、都市部への出店を掲げている。
もちろんグローバル化という大きな流れにも、その対応に怠りはない。11年に韓国に拠点を設けている。
また豊﨑は、これまでがそうであったように、時代とともに変化していく食文化のあり様や社会構造にも注視している。
都市部への本格的な出店攻勢が始まれば、土地確保の難しさから新しい回転寿司フォーマットを創造しなければならない。場合によっては、回転寿司という提供方法そのものを考え直す必要もあるだろう。回転寿司業界トップ、あきんどスシローの挑戦は、これからが本番だ。